「グランド・ホテル…。いつもと同じ。人々はここにやって来て、そして、ここから去っていく。なにも起こらない」。米映画「グランド・ホテル」(一九三二年)の最後のせりふである
▼ご覧になった方ならご存じだろう。この映画、それぞれにわけありの宿泊客が織りなす群像ドラマである。ホテルにやって来て去っていくだけのようにしか見えぬ宿泊客にもいろいろな人生があり、複雑な事情や苦悩をそれぞれに抱えている。そう、そのせりふは言いたいのだろう
▼「二人はやって来なかった。そして業務を妨害した」。映画のせりふを借りればこんなところか。失礼。現実のホテルを舞台にした犯罪である。宿泊予約サイトを通じて予約したホテルを無断でキャンセルし、業務を妨害したとして、京都府警は自称自営業の女とその息子の二人を逮捕した
▼サイトを通じて予約すれば、キャンセルしても特典ポイントがもらえる場合もあるそうで、二人はこれを悪用し、予約と無断キャンセルを繰り返していたらしい。その回数二千二百回以上。約百九十万円分のポイントを不正に得ていたというからホテルには大迷惑な錬金術である
▼生活に困ってということでもないのか、ポイントを使ってホテル暮らしをしていたという
▼母親五十一歳。息子三十歳。あの映画ではないが、二人の人生と事情の方もどうも気になってしまう。
中日新聞:中日春秋(朝刊コラム)
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