寛政期の江戸歌舞伎を代表する名優、五代目の市川団十郎が芝居に対する心構えを伝える、「市川家のおしえ」はなかなか厳しい
▼「下手と組まず、上手と組む。下手とはつきあはず、下手と外あるかず、巻き添えにならぬように引きずり込まれぬように」。下手な役者とは外も歩けない
▼かと思えばがんばりすぎるなとも教えているのがおもしろい。「年に二度も出かす、役とる度に大でかしする気で大魂胆しては命たまらず」。抜くところは抜かないともたないよとは現実的である。「おしえ」がもっとも強調しているのは健康の大切さなのだろう。「寿命なければ(芝居を)やれず、長生きせねばならず」とある
▼とすれば、この見直しももっともな話だろう。松竹は同社制作の二十五日間の歌舞伎公演について、四月以降は休演日を設定すると発表した
▼働き方改革の波がここにも。これまでは、二十五日間連続の公演だったが、一日の休みを入れるそうだ。休養の必要性を訴えてきたのは五月に十三代目の団十郎を襲名する市川海老蔵さんで、あの「おしえ」が念頭にあったのかもしれぬ
▼チケットは取りにくくなるか。されど、ただでさえ、役者に長時間の緊張と体力が必要な歌舞伎である。休みによって役者が精力を取り戻し、よい芝居を見せれば大向こうにも悪い話ではない。なにより「寿命なければやれず」である。
中日新聞:中日春秋(朝刊コラム)
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