<荒れ狂う嵐の日にも時間はたつ>。戯曲『マクベス』の中で、将軍マクベスは言う。嵐を思わせる新型コロナウイルスの脅威で心晴れない日が続いている。それでも街を歩けば、春が来ている
▼ハクモクレンの花が咲きそろい、カンヒザクラだろうか、早咲きが頭上から道行く人を楽しませていた。将軍のせりふを思い出しつつ、時の経過がつかの間、ありがたくも感じられる昨今である
▼詩人堀口大学に『小学生』がある。<先生/植物学はうそですね/樹木もやはり笑うもの/梅が一輪咲きました>。「咲」は「笑」と同じく「しょう」と音読みし「わらう」の意味を持つ。花は咲いても、どうも笑みが乏しいと感じさせる春だ
▼世界保健機関(WHO)が世界的大流行を意味する「パンデミック」を表明した。日本でも米国でも株価が暴落している。遅すぎたとも言われる表明だったが、このような混乱をおそれたがゆえの慎重さではなかったかと推察する
▼表明に合わせるように世界中でスポーツやイベントの中止、延期が進んだ。さらに拡大しそうでもある。舞台の「花」やスタジアム、グラウンドの「花」は咲かず、人々の笑顔も失われていく。わが国ではエンターテインメント関係や観光など人々の笑顔が重要な業界を中心に悲鳴や嘆きが増している
▼「支援を」。笑顔を失った市場から、声が聞こえてくる春である。
中日新聞:中日春秋(朝刊コラム)
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